創業から25年目にして、ようやく実現できた海外研修旅行で5月22日から4日間、北京に行った。初めてのことで不十分なこところがあり、準備不足な点もあったと思うが、まずは、社員みなが事故なく無事で帰ったことに安堵している。
東京の社員には実質的に2泊2日という厳しい旅程になってしまったので、ほんとうに喜んでもらえるだろうか、と心配しつつ出かけていった。少なくとも旅行中には、忙しく、充実した時間を過ごしてもらえているようだったが、どうだったろうか。人事からアンケートを出してもらい、それらを集めて、6月の経営会議で全体の総括と、問題点と改善方法の把握をし、次の企画に活かせたいと思う。
社員とともに海外旅行をすることは長年の夢であった。小生自身が、21歳の時にイギリスへ行ったところから今の人生が始まっているように、海外旅行には心と人生を揺さぶる多くの要素が詰まっている。歴史と風土を実感し、文化と民族性を発見し、それによって視野を広げ、多様性を受入れ、自国・日本への新しい視点を得る。百聞は一見に如かず。100冊の本を読むより、現地に赴いて得る成果の大きさは今も昔も変わらぬ事実である。
「まさか、社員みなで海外旅行に行ける時代が来るとは思いませんでした」と、あるベテラン社員が旅行中につぶやいた。小生自身は、いつかは皆と海外旅行ができる日をつくりたい、と思っていたので、もっと早くそういう目標を共有できるようにすべきだったと反省した。
訪れた北京は800年あまり中国の首都として栄えている都市。歴史の上に歴史が積み重なって、その上に共産主義と近代国家が建っている。あと2ヶ月あまりで初めてのオリンピックが開催されようとしている。日本で言えば1964年の東京オリンピックだが、北京はその時代よりも遙かに前進している。日本がその後44年間をかけて遂げた経済成長と社会的発展を、とう小平が実権を握った1978年以来、共産主義を掲げつつ実現してきた国家である。その最先端を走るのが北京と上海であり、その勢いを目の当たりにできた今回の旅行に、社員たちはどういう視点を得られたであろうか。
直前に四川大地震がおこってヒヤリとした。旅行計画を危ぶむ声も聞かれたが、阪神・淡路大震災の時を思い出して、こういう時こそ訪問することが中国国民への励ましになると信じて催行した。東京の社員は間に合わなかったが、初日の出版関係者を招いた夕食会では、冒頭で四川大地震の犠牲者へ1分間の黙祷を捧げた。そして小生より哀悼のスピーチを発表し、来賓の代表者・王平氏(天潤力澤文化発展有限公司代表)から答辞をいただいた。彼は今回の日本政府と日本国民の支援に感謝を述べ、ついで出版文化社の中国への積極交流に、深甚なる謝意を表明してくれた。「来て良かった!」と心が軽くなった。
来年はハワイを目標にしている。ハワイというと遊びだけ? と思われるかもしれないが、それでは研修旅行にならない。ハワイと日本には深くて長い交流の歴史がある。明治維新のころ、ハワイが欧米に接収されようとしたとき、ハワイのカラカウア王は日本の天皇に支援を求めた。その時、いち早く日本がハワイを支えていたら、あの真珠湾攻撃は無かったし、日本−ハワイ−沖縄という強固な三角関係ができていたかもしれない。そういう歴史を体験できる旅行に、また皆で行けるように励みにしたいと思う。そして、いつかは夫人同伴の社員旅行になれば、小生の夢はまたひとつ実現する。
浅田厚志
サラリーマンのころ、取引先との会食の席で「出版社に勤めている方はよく字を知っているでしょう?」と言われて、恥ずかしい思いをした。“渾身の力”という話が出てきて、どんな字だったかな? と聞かれて自分でもあやふやなのに「懇親会」の懇に身でしょう、と答えてしまった。恥ずかしくて、翌日お詫びのハガキを書いたのだが、しばらくその担当者に会うのを避けたほど身にしみた。
ついこの間も6名ほどで話していて「あの、有名な香港のホテル・・・、あの半島という名の・・・何でしたっけ」と私に顔を向けてきた。「半島? 朝鮮半島の? えーっと・・・ペニンシュラですか?」「そうそう」この時はたまたま知っていたけれど、出版社の人だったら知っているだろう、とあたり前のように尋ねてくる。
私たちは情報や資料を編んで原稿や本にする。それは一般の方からすると「知」を編むということに他ならない。それに恥ずかしくない勉強をし、仕事をしなければならない。
しかし、あらゆることの知識を常に入れるというわけにはいかない。そこで必要なのは、重要度の高い知識は怠らず、継続するということだろう。私たちにとって、重要度の高い知識とは何か。社史をつくるヘリテージの分野も出版企画部門にしても、ビジネス、経営関係の情報を扱っている。そうすると、日経新聞に目を通すのはまずは第一の日常行動として求められる。
日々、流れる情報は日経新聞で定点観測ができる。それ以外にも仕入れる情報源はあり、そこは各自の工夫があってよい。それでも日経新聞に目を通しておくことは、まぬかれるものではない、ということを肝に銘じておきたい。
次に専門家として、専門知識を入れることだ。これは社史部門も、出版企画では異なる。また、現代は変化が激しいので、間断なく学び続けないと、すぐに情報は古くなる。社員は毎月の読書研修を活用していただいて、自分に足らないと思われる分野を強化してほしい。
いま繊維業界をはじめとして、日本のいろんな業界が中国の追い上げに苦しんでいる。手や機械を動かすところから利益を得ようとすると、今後はさらに苦しくなるばかりだ。一方で、自動車業界は環境対応や高燃費の付加価値が評価されて売上を伸ばしている。利益はいつも他社との企画や技術の格差が源泉になっているのだ。
私たち出版業界も同様で、智恵が無くなったら、手を動かして利益を出すしかなくなる。すると、利益の源泉は低賃金長時間労働の方向に行くしかない。それは私たちの首を真綿で締め付けることになるのは、おわかりだろう。私たちの生活品質を向上し、維持してゆくには粗利益を上げる必要があり、その源泉は私たちの智恵にあるのだ。
当社の社員は、毎日、懸命に仕事をしていただいている。企画営業は顧客との新しい接点を求めて開拓する。編集は創意工夫をこらして、少しでも顧客満足の高い商品を提供しようとしている。それは日々、市場と顧客との戦いである。しかし、もっとも効果があるのは顧客から尊敬されることではあるまいか。「あの会社はスゴイ」「あそこの社員はよく勉強している」と顧客が思えば、顧客は他社に逃げなくなるし、完了後も紹介や推薦をしていただける。
出版社は、機械設備をおいても、それでよい企画ができるとはならない。一番の設備で、財産は人そのものであり、その人達の品質にかかっている。このことを忘れずに自分に克って勉強を続ける人こそ、我が社の次代を拓く人材になりうる。
浅田厚志

